糖尿病男児を死亡させた祈祷師 医療スタッフの傷つきに注目して
重いⅠ型糖尿病をわずらう7歳の男の子を死亡させたとして祈祷師の男が逮捕されました。もちろん、とんでもないことした祈祷師の責任が一番問われるべきですが、私が気になったのは両親に対する医療従事者たちの冷淡さです。
親に対する厳しい目線
「親に対する教育をもっとしていれば」
「なぜ祈祷師なんかに頼ったんだ」
「もっと親に対して厳しく指導すべきたった」
などと、両親に対しての気持ちを持つことが多いように感じます。
もちろん両親の責任を問うことも必要ですが、それはご本人や世論が考えるべきことであり医療職としてはまず医療のあり方を深く反省する必要があると思います。
なぜ、この子の両親は医療ではなくて祈祷師を選んでしまったのでしょう。あるいは、選ばざるを得ないほど追い詰められてしまったのでしょう。誰かに助けを求めることはできなかったのでしょうか。
おそらく、この子に関わった医療関係者は皆善意で真剣にアドバイスしていたのだと思います。7歳の男の子を殺してやろうなどと考えていたはずがありません。
ですが、
医療スタッフの言葉は両親に届かなかった。
そのことを我々は真摯に受け止めるべきではないでしょうか。
『聴く』ことの大事さ
親に対する教育、指導、という発想ではなくて、親の戸惑いや否認をそのまま受け止める。混乱した気持ちを吐き出して整理できる安全な場所を提供する。そのような受け入れ方をできる医療機関や医療スタッフがどれだけいるでしょう。そもそも、三分間診療で心のケアまで到底手が回らないというハード面での障害もありますし、医療従事者のほとんどが傾聴などの話を聞くスキルを身につけていないというソフト面の障害もあります。
医療従事者は(というより、日本人全員が)混乱した自分の気持ちをただ聞いてもらうことの効果を知らない人が多いように感じます。
「どうして私が」「病気が憎い」「私は病気なんかじゃない」などというネガティブな言葉を聞くと、「もっとがんばれ」「病気を受け入れろ」「もっと重篤な人もいるのだから我慢しろ」などと反射的に反論したくなるのが普通です。そういって反論する人たちは善意なのだと思います。そして、これが日常の会話であればさほど問題にならないのかもしれません。
ですが、無力な患者vs偉い医療従事者 という構図を感じてしまっている人にとって、医療従事者の言葉は時に人生を打ち砕くほど残酷に響くということを、私自身もっと自覚して行動しなければいけないと思いました。
医療スタッフも傷ついている
今後、このような悲しい事件を起こさないようにするためには、誰かを責めているだけではいけません。責めても何も変わらず、むしろさらに追い詰められる人が増えるからです。
病気になったご本人の傷つきのケア、家族の傷つきのケア、患者や家族の気持ちを受け止めるだけの時間的余裕を作ることも非常に大切ですが、ここではまず、ほとんど注目されない点である情報の発信者であり大きな影響力を持つ医療スタッフ側の傷つきもしっかりとケアを考えてみたいとおもいます。
医療スタッフは完璧ではない
医療スタッフも一人の未熟な人間です。ただの人間である以上、病気を持ったご本人や家族の気持ちを完全に受け止め癒すことは不可能です。
なぜ、医療スタッフは患者に厳しい言葉をかけてしまうのか
神様ではなくただの人間が生と死の現場に立てば、当然傷つきます。
医療スタッフは夜勤が多く責任も重いという肉体的な大変さばかりクローズアップされてしまいますが、
「もっとよくしてあげたかった」
「治してあげたかったのに、治せなかった」
「目の前で亡くなっていくのを見ているしかなかった」
という気持ちを日々抱く、精神的に過酷な職場でもあります。この傷つき、やるせなさを抱えたまま患者様と対峙したとき、「もっとがんばるべき」「あなたの病気なんてたいしたことない」という厳しい態度になってしまい患者様を追い詰める原因になっていないでしょうか。
自分の中で未解決の気持ちを抱えたままであれば、今後ハードとソフトが整いじっくりと患者様と向き合える時間の余裕ができたとしても、結局患者様を責めるような言葉しか出てきません。
社会を変えていく前に
脱施設や医療費削減が推進される中、一人ひとりの方としっかり向き合い、様々な人がお互いに支援しあうシステムをつくることは急務です。
ですが、システムを作る前に、作り手である我々の気持ちのケアという視点を加えることで、より軽やかに前向きに活動し賛同者も増えていくのではないかと思います。
長文になりましたが、お読みいただきありがとうございました。
この文章は
藤田が書きました。
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